
あーあ、損得勘定で動いて結局失敗したし……。
巷では、「損得勘定は結果的に損をする」という諫言があります。
ですが、本当にそうなのでしょうか?
経営・ビジネス的な視点を好む私からすると、巷での「損得勘定」という言葉は意味の幅が狭いように思われます。
損得勘定の強い性格で悩んでいる方は、克服するという発想よりもむしろその損得勘定を「より合理的で望ましい損得勘定」へと昇華させていく方が良いのではないでしょうか。
そのような考え方を進めていく中で重要となるカギは、「win-win関係」と「長期的視野」です。
損得勘定の意味、ネガティブな使われ方が多い
損得勘定とは、物事を「自分にとって損か得か」で判断することを指します。
損得勘定の関係する対象は実に様々です。
買い物でも人間関係でも日常の行動でも、何かしらの判断をする際の基準として働くものの一つが損得勘定であると言えます。
一般的に、損得勘定という言葉は何かとネガティブな意味合いで使われることが多々あります。ここで言うネガティブというのは、エゴイズム(利己主義)や短絡的思考と結びつけて窘めるような使われ方です。
例えば、特殊詐欺事件などはその典型であると言えます。末端の構成員の場合は、目先の損得勘定に囚われて詐欺グループに加担し、結果として逮捕されることとなります。(なるはずです)
あるいは、「ビジネス=良くない」という発想がある場合は、損得勘定それ自体も自然と忌避することになるかも知れません。損得勘定はビジネスの根底に関わる発想だからです。
アフィリエイトに見るwin-win関係と損得勘定

それでは、ネガティブな側面とは逆に大多数の人が「良い」と考えるであろう損得勘定の具体例について考えていきます。
アフィリエイトとwin-win関係の構築
それでは、前回記事でご紹介したネットビジネス・アフィリエイトの図解を再掲します。
アフィリエイトサイトは楽に稼げる副業?ネットビジネスと会社員の違い|時事問題・社会コラム⑧
もちろんここで1000円相当の宝石を騙して10万円で売ったり、あるいは丸っきり詐欺であったりするようなケースであれば問題となって当然です。
ですが、価格設定が適切で商品の質も良いならば、このような関係になることでしょう。
・サイト運営者:広告の見返りの報酬で更に学習教材や機材が買える。
・訪問者:サイトで情報を得て、欲しいモノを見つけ、自分の意志で買い物して満足。
(※買い物依存症で買った後に後悔するようなケースは除く)
こうして考えると、関係者全員が得をしていると言えます。
これこそがまさしくwin-win関係です。
win-win関係というのは単なる流行り言葉ではなく、れっきとした経済用語です。ザックリと言えば、取引を通じて「お互いが得をする」ような関係を指します。
上の図では三者間の取引(+ASPで四者)ですが、大切なのは「関係者全員が満足感を得ている」という点です。
ちなみに金銭面だけを見ると訪問者の所持金は減っていますが、「欲しいものを見つけて購入できた、要求を満たせた」という満足感もまた「得」に他なりません。(経済学的には「効用」と呼びます)

あとは各々がいかに情報リテラシーを高めて「より良い買い物」が出来るかに懸かっています。
長期的視野からウィンウィン関係を模索する損得勘定
さて、先ほどの例を更に進めて、各々が「長期的な視野から見た損得勘定」に基づいて行動するとしましょう。
- 広告主:自社ブランドのさらなる成長、職場環境改善、収益力アップの為にさらなるサービス向上や業務改善を目指す。
- サイト運営者:サイト全体のブランド及び自分自身の成長の為に、提供するコンテンツの質・量ともに向上を目指す。
- 訪問者:情報リテラシーを高めてより良く情報収集・取捨選択をし、知見を深め、同時に買い物上手にもなる。
こうして、各々が長期的な損得勘定に基づいて自己の利益を高めつつ、「みんなハッピー」も両立できるということです。まさしくビジネスの好循環です。
そして、このように参加者全員の利益・効用を高めることこそが経済活動の本来目指すべき目標でもあります。

「経世済民」、つまりより良い社会を構築して人々の生活の質も向上させるということです。現代日本にこそ必要な概念です。
もちろんこれは理想論ではあります。人間である以上は、意識的・無意識的に様々な思惑が複雑に入り組んでいきます。
ですが、ここで述べたいのは「損得勘定それ自体が問題ではなく、むしろ損得勘定の視野を拡げることで全体のプラスにも貢献できる」ということです。
その上でマイナスの結果に終わったとしても、それは損得勘定の問題というよりも自分自身の力不足(や運の無さ)が原因であると捉えた上で、失敗から学び更に成長すれば良いだけです。
元々損得勘定をする性格であるということは、冷静に合理的な判断ができる傾向にあるとも言えます。(少なくともその意志があるということ)
それならば、元々の性格を活かして「より広い損得勘定」へと昇華すれば良いのです。

競うな!(各々の)持ち味をイカせッッ!
「損して得取れ」こそ長期的視野からの損得勘定
さらに言えば、目先で必要になる労力やコストも、長期的利益を前提とすれば結果的には得になるという判断もできます。
短期的にはマイナス10であっても、長期的にプラス100になれば結果的に「得をする投資」であるという損得勘定です。
これはまさに「損して得取れ」の構図です。
この言葉は単なる精神論ではなく、まさしく当記事で述べているような「長期的な視野からの損得勘定」そのものである言えます。
短期的視野から自滅するエゴイズム的な損得勘定
では、話をより良く理解するための対比として、先ほどの関係を「エゴイズム全開の損得勘定」として考えてみます。
- 広告者:センセーショナルな誇大広告を打って稼いでいるが、商品の質が非常に悪く、事故も起こしているのにアフターケアもカスタマーサポートも杜撰。
- サイト運営者:詐欺と知っている広告を悪意で貼って短期的に荒稼ぎ。
- 訪問者:あちこちで悪質なイタズラを仕掛け、マルウェアもバラ撒いて愉しむ。
これらはまさに、「自分さえ良ければ他人のことなどどうでもいい」という損得勘定です。
これではビジネスどころかネット文化全体にとってもマイナスです。
こうした行動は社会的信用を将来にわたり失い、場合によっては裁判沙汰に発展する可能性もあります。
「短期的には」満足が得られるかも知れませんが、長期的視野からすると結果的にそれ以上の損失を自ら被ることになるでしょう。
(もっとも、雲隠れしつつそうした行為を繰り返す人も居るかも知れませんが……)

上記の例は極端なケースですが、程度はどうあれ「周りに損を押し付ける損得勘定」からは脱却した方が良いというススメです。
「利益」という概念の枠を拡大する
最後に、ノーベル経済学賞受賞者であるアマルティア・センの「潜在能力」についてカンタンにご紹介します。(正確には「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞」)
センの言う「潜在能力」という言葉には独自の定義があります。
ここではウィキペディアから引用してみます。(2019/6/21時点)
潜在能力とは 「人が善い生活や善い人生を生きるために、どのような状態にありたいのか、そしてどのような行動をとりたいのかを結びつけることから生じる機能の集合」としている。具体的には、「よい栄養状態にあること」「健康な状態を保つこと」から「幸せであること」「自分を誇りに思うこと」「教育を受けている」「早死しない」「社会生活に参加できること」など幅広い概念である。そして「人前で恥ずかしがらずに話ができること」「愛する人のそばにいられること」も潜在能力の機能に含めることができるとしている。
こうした「潜在能力」の考えには、多くの人が肯定的な感情を抱くかと思います。(なお、センの念頭にあるのはインドの貧困問題であり、日本人の想定よりもシビアです)
注目すべきは、これが経済学の文脈から生まれた概念であるということです。
この潜在能力というのは、道徳の問題ではなく具体的な評価の基準として提唱された概念です。
ここで私が思うのは、こうした「潜在能力を高める」ことも損得勘定の一環として考えることができるということです。
つまり、「利益」の概念それ自体を拡大して損得勘定すれば良い、というのが私の持論です。
まとめ
損得勘定について本来咎められるべきは、「目先のエゴイズムに囚われて周りを傷つけるような損得勘定」です。
これは「損得勘定は短絡的だから良くない」という十把一絡げのロジックとは違います。
世間的に咎められる損得勘定というのは、本来は上図でいう小さな青丸の部分です。図の通り、「視野が狭い」ということです。
それに引き換え、損得勘定をより広い視野から考えると、「長期的なwin-win関係を模索する損得勘定」はむしろ世間的にも是認されることであるはずです。
加えて、「利益」という概念それ自体も拡大していくことができます。「金銭的価値で測り難い大切なもの」を求めるならば、その大切なものを「価値ある利益」として追求すれば良いということです。
損得勘定で物事を判断する性格というのは、「冷静かつ客観的・合理的に物事を判断する」という側面においては強みにもなりえます。
それならば、無理に損得勘定を克服しようとするよりも、むしろ「視野の拡大した損得勘定」に昇華していけば良いのです。

「全体の利益に貢献しつつ、しっかり自分自身の利益も高める」ということです。これこそがビジネス・経済が本来目指すべき方向です。
※ここで「自分が得する=他人が損する」と考えるならば、それこそがまさしくゼロサムゲームの発想です!
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