社会人にとって、ビジネスマナー・礼儀作法・言葉遣いは頭を悩ませる問題です。
世の中には様々なマナーが乱立しており、調べれば調べるほど「どれが正しいのか分からない」状態になりかねません。特に新社会人ほど混乱することでしょう。
更には、人によって正反対のことを言っているケースすらあります。

もうマナーなんてどうでもいいじゃん。

でも、社会人になったらそうも言ってられないよね。
そこで、ビジネス上の必要性という根本を踏まえつつ、マナーについての基本方針を考えていきたいと思います。
「承知しました」と「了解しました」に見る集団心理
「了解いたしました」は国語的には紛れもない敬語表現
例えば、近年になって急に「『了解しました』は目上の人に対して失礼だから『承知しました』を使うべき」というビジネスマナーが生まれました。
この話を初めて聞いた時、私には合理的な理由が分かりませんでしたが、とりあえず周りに合わせていました。
国語的に言えば、「『了解』という言葉自体は敬語表現ではない」という部分は事実です。
ですが、一方で「了解」という言葉に「上から目線」という語義が見当たらないこともまた事実です。
よって、「了解しました」は普通の丁寧語です。
なお、ビジネスシーンにおいては丁寧語では足りない場合もありますが、「了解いたしました」は謙譲語+丁寧語であり、紛れもない敬語表現であるはずです。少なくとも咎めるべき要素は見当たりません。
正しいビジネスマナー=「社会的に正しいと思われている風潮」
この件について改めて調べてみたところ、こうした言葉遣いが広まった経緯はやはり合理的な理由があるとは言い難い状況でした。
「了解しました」より「承知しました」が適切とされる理由と、その普及過程について│LIG
まずリンク先の記事内だけでも、「了解は問題ない」とする本が何冊も挙げられています。この時点で、「ビジネスマナーには諸説ある」という事実が再認識できます。
加えて、そもそも「了解しました」を不適切とする発端となった本にも、合理的な理由は特に述べられていない模様です。

そもそも「承知しました」って言葉こそ何だ?合点承知の助か?
主観的な言語感覚をマナーの根拠とするならば、逆に「承知しました」という表現に違和感や堅苦しさを覚えるという人も現実として居るわけです。
それでも、ビジネスマナーとしては「承知しました」が多数派を占めることになりました。(その勢力図も変わりつつあるようですが)
ビジネスマナーは、言語学的にどちらが正しいか、どちらが合理的かといったことが問題ではありません。
「社会的にどちらが正しいと思われているか」という心理的側面が問題です。
なぜなら、ビジネスマナーには「相手方にマイナスの印象を持たれないようにする」というリスク回避的な側面も大きいからです。礼儀作法を守る必要性もここにあります。
そうした発想を持った社会人が「了解という言葉は失礼」と言われれば、特に理由はなくとも了解という言葉にリスクを感じて使用を控えることでしょう。
そこに「周りと同じことをやっていれば安心」という集団心理が働くことで、社会的な普及に拍車が掛かることになります。

でも、もとを正せば必要のないマナーじゃないですか……?

むしろ、「あえてリスクに踏み込む必要もないからこそ長いものに巻かれていく」とも言えるのではないでしょうか。
ビジネスマナーをめぐる基本方針

それでは、「若手新入社員への実務的なアドバイス」という設定で、ビジネスマナーの基本方針について考えてみます。
「ビジネスマナー講師の説明が正しい」かは分からない
まずはじめに、ビジネスマナー講師の言っていることが全て正しいとは限りません。
本当に見識のあるマナー講師であれば、幅広い業界・会社におけるマナーと触れ合って自己研鑽や研究を続けていることでしょう。(それをしていなければアマチュアと同じです)
そうであれば、一般社会人と比べると「より適切なマナー」が分かっているはずです。
ですが、それはあくまでも「相対的に詳しい」という話であり、「だからマナー講師は絶対的に正しい」という話とは違います。
これは単純な話で、全国統一的なルールとしてマナーが定められているわけではないからです。(定められているならば「ルールとして」守る必要がある)
一般的に「正しいマナー」とされるものは、あくまでも比較的広く通じるであろう慣習であり、根本的には『所変われば品変わる』ものであると言えます。
一定のビジネスマナー・礼儀作法は「心遣いの表現」として必要
では「ビジネスマナーなど勝手にすれば良い」かと言うと、それもまた違います。
極端な例を挙げると、ビジネス上の相手が机の上に足を乗せてくわえタバコでスマホ片手にタメ口で「お前、何いってんの?」などと言っていれば、「およそ対等に話す気が無い」と言わざるを得ません。
これは純粋な感情論というよりも、具体的な形や行動として表現しているからこその問題です。
上の例は話を分かりやすくするための極論ですが、大なり小なり「マナーが良くない」と思われてしまう行動や言葉遣いがあるということです。
だからこそ、「一定の」ビジネスマナーや礼儀作法は形式的表現として必要であるということです。なお、礼儀作法で言う「作法」という言葉はまさしく形式的な型を意味します。
逆に自分がそうした「一般に良いとされるマナー」に則った対応をすることで、相手方が「あっ、真摯に対応してくれているな」と感じたならば、ビジネスがより円滑に進むことでしょう。
まずは社内でのローカルルールを知ること、先輩や同僚に質問
ではその「一定のビジネスマナーというのは具体的に何か」と言うのが問題になります。
特に、新社会人の方がネットで調べても結局わからないのは、まさにこの部分ではないでしょうか。
そこで、まずは社内のローカルルールを知ることが大切です。
世間的には認知されていないマナー、あるいはネット上のある人はNGと言っているマナーであっても、自社内でローカルルール化しているのであればそれが自社の方針であるということです。(もちろん公序良俗に反しないことが前提)
マナーに関する接客マニュアルの類いがあるならばそれがルールブックになりますし、無ければ先輩社員に質問することです。
会社員であれば、あくまでも会社に雇用されている身です。よって、社内でローカルルール化しているマナーや礼儀作法もいわば仕事の一環です。(公務員でも同じ)
職務内容の一環である以上は、「質問が苦手で先輩に訊けません」とは言っていられません。
先生に勉強面の質問ができない人必見!上手な質問の仕方のコツを学び成長しよう|勉強法・教育法㉖
なお、自営業者などの場合、「望ましいマナーは何か」というのはまさに自分自身の経営判断次第になります。その際には、後で取り上げる顧客目線がなおのこと重要になってきます。
「くだらないビジネスマナー」は自分から変えていくしかない
なお、人によっては「くだらない」と思われるビジネスマナーがあることもまた事実です。
私自身も、以前ツイッターにてこのようなツイートをしました。
#KuToo 運動
この件については女性差別とかの論点ではなく
「社会全体の生産性・効率性の最大化」という観点で進んで欲しい社会にはAI導入とかITソリューションとか以前に非効率的な決まり事が多すぎるように思う#ビジネスマナー こそ徹底的に #断捨離 が進んでいくことを願う
リアルRTA社会的な— 三兎セッコ (@SantoSekko) June 3, 2019
※KuToo運動というのは、「ハイヒール着用を会社から強制された結果、足を痛める女性社員が続出している」ということに対する抗議活動です。
個人的には、このような損失しか生まないビジネスマナーは全国一斉に控えた上で、職務命令により生じた健康被害は労災認定すべきだと思います。(そもそもビジネスと言いつつ不経済な因習にこだわるのは矛盾しているのではないかという疑問)
もちろん命令ではなく好きで履く分には基本自由です。
とは言え、外野からは何とでも言えますが、一会社員が独断でビジネスマナーを拒否するのが良いこととは言い切れないこともまた事実です。
ビジネス的には、たとえ平社員であっても会社の看板を背負っています。例えばHONDAの社員であれば、末端の社員であっても対外的には「あのHONDAさん」となり、単なる一個人の立場とは見られません。
よって、そのビジネスマナーが非合理的で変えるべきものであると考えるならば、自分自身が提案して改善を促していくのが組織の構成員としての筋です。
具体的な提案という形を取らなくとも、周りを巻き込んでいきコンセンサス(合意)を拡げていく形でも構いません。
その上で、「組織として」方針転換していくということです。
それが出来なければ、納得はせずとも「形式的には」社の方針に従っておくのが無難です。

それでもどうしても納得できないならば、自分自身が経営側に回って変えるか独立・転職するのが次善の策です。
顧客目線のニーズに合わせるのが本来の趣旨
自社で特にローカルルールの定められていない部分は、顧客目線・相手目線という原則に立ち返ることになります。
ビジネスマナーというものは、そもそも相手方に不快感や不信感を与えないことが主な機能の一つです。カンタンに言えば、「この人は真剣に対応してくれているな」と相手に思わせるようなことです。
そこから更に踏み込めば、「積極的に顧客満足度を高める」ことも可能です。特に接客業や営業職では重要になってくることでしょう。
逆に言えば、相手方の望んでいないことをやっても何の足しにもなりません。
もっとも、相手の受け止め方も自分自身の感覚も人それぞれだからこそ、これほどビジネスマナーが分立することになっているとは言えますが……。
そこがまさしく「マナーに絶対的な正解など無い」とする所以です。

逆に自分自身が顧客の立場であれば、「マナーは大体でオッケー」と広い心で受け止めたいものです。
1周回って上司などに訊く、会社の同僚とマナーの情報共有

でも、「お客さんの求めるマナー」が簡単に分かれば苦労はしないですよね。

私も経験上、百も承知重々承知しています。……そこで考えるべきは、やはり社内の同僚や上司です。
まず、指揮系統という観点から言えば、上司に確認するのが仕事としては筋です。
あるいは、上下関係なく、職場の同僚たちと情報交換をするということも大切です。
これによって「周りで受け入れられているマナー」も分かりますし、特に合意形成されていない場合は、情報交換の過程の中でお互いの共通認識を形成するという機能も見込めます。
特に、マナーや礼儀作法というのは「一人だけやれば良い」というものではなく、むしろ組織内で統一できる部分は統一していくに越したことはありません。
これは業務の標準化と同じ発想です。
数多あるビジネスマナーや礼儀作法のうちの「どれが正しいか」というよりも、社として「どれが正しい」とするか、ということです。
そのように考えると、1周回って社内のローカルルールが重要になってきます。
まとめ
基本方針についてザックリとまとめると、以下のようになります。
- ビジネスマナーは合理的に決められるとは限らず、むしろ慣習の側面が強い。
- マナー講師の説明はあくまでも相対的であり、「絶対的な正解」は無い。
- 「いかに相手にマイナスの印象を持たれないか」という観点からマナーを捉え直す。
- 「心遣い」を形式的な表現として相手に示す。礼儀作法で言う「作法」の意味。
- 社内のローカルルールを優先していくと具体的でわかりやすい。
- 気に入らないマナーがあるならば自分で改善策を提案する。
- 原則としては、顧客目線が第一。(ただし受け止め方は人それぞれなので難しい)
- 自営業者や経営者は、割り切って自分自身で経営判断する必要がある。
マナーや言葉遣いを考えるにあたって最も大切なのは、「相手方が快く思うか」という点です。
しかし、「絶対的な正解は無い」、「受け止め方は人それぞれ」といった側面があるため、「何が正しいビジネスマナーなのか分からない」というのはある意味で自然なことです。
そこで大切になるのは、社内での情報共有です。
特に新社会人や新入社員ほど、臆せず上司や同僚に訊いてみましょう。話し合う過程のなかで、意外と先輩職員の方にも新しい発見があるかも知れません。

ビジネスマナーは仕事の成果にも直結しかねません。通常業務と同じように、是非とも積極的に意見交換しましょう。
※質問が苦手な方へのアドバイス、仕事にもそのまま当てはまります。
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※なお、「どうしても社風が合わない」と感じるならば、転職するのも一つです。
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