「あなたの考えを述べなさい」
このような問題が出た時に、「じゃあ私のオリジナリティを出そう!」と意気込んでいませんか?
しかし、問題文をよく読んでみると、次のような文言が設問に入っているはずです。
「次の文章を読んで」「筆者の主張を踏まえ」「本文に即して」
今回の問題は、前回記事の延長にある問題点です。

「あなたの考えを述べなさい」の本当の意味と解き方
まずは、日常のシーンで考えてみましょう。
「あなたの考え」を述べることは入試問題だけではなく、その先の大学、社会活動、ビジネスにおいても非常に重要です。
- 学会では、説得力のある論文、学説を発表して多数の賛同を得られれば有力説となっていきます。
- 討論の場では、お互いの意見を尊重しつつも、いかに自説を納得させられるかが問われます。
- ビジネスの場では、より多くの利益を求めて意見交換をします。あなたがより説得力の高い案を提示できれば高い評価を得られるでしょう。
議論の場での「あなたの考え」をシミュレーション

では、ここで議論の場をシミュレーションしてみましょう。
さて、今回の議題が何か発表されました。
ここではスマホ問題で考えてみます。
その議題に対して、参加者は各々自分の意見を考えます。
そしてまずは参加者が色々な論点を出してみます。
ある生徒は『ソシャゲでコミュニケーションが上手く出来ない』というもどかしさを、ある生徒は『スマホ中毒で睡眠時間が削られて辛い』、またある生徒は『うちではスマホ自体を持てない』といった不満を、それぞれ訴えていきます。
そうこうしているうちに、議論の方向性がまとまってきて、「子どものSNS問題」という論点がメインテーマに収束しました。これが国語でいう「本文の主旨」にあたります。
この「子どものSNS問題」というメインテーマに対して賛成意見や反対意見、中立意見がさまざま出てきます。議論が膨らみます。
では、「それに対して」あなたは何を考えますか?
当然、挙がった議題・論点を情報整理して理解し、メインテーマに対する適切な回答として自己の考えを主張することになります。
ここで、ある生徒さんが発言します。

歩きスマホは危ないから規制しよう!

えっ?それが今のSNS問題となにか関係があるんですか?

だって歩きスマホは絶対に危ないし、規制すべきだよ!誰も異議はないでしょ?ほら僕の考えは正しいじゃん。何が間違ってるの?
これではただの的外れな主張です。ただの自分勝手な発言です。
他の人の意見や場の司会進行を無視して無関係な自己主張をしたところで、聞き手は誰も納得しないわけです。

無関係な自己主張は賛同を得られないだけではなく、話し合いの場を引っかき回すことになるので注意しましょう。
国語・英語・小論文での「あなたの考えを述べよ」は本文が前提
では、国語の問題で考えます。
本文で筆者がこれこれこのように主張しています。
この筆者の主張を聞いて、あなたはどう考えますか?どう答えますか?
解答欄に記述するあなたの考えが「本文の主張」に答える形になっていないと、筆者を無視した「ただの自己主張」となるわけです。
国語で問われているのはあなたの思想の素晴らしさではありません。あなたの「国語力」が問われています。
筆者の主張に賛成であろうと反対であろうと中立であろうと、本文の内容を踏まえた解答で論理的に筋が通っていればそれが正解なのです。(賛成か中立の方向で意見を付け足す形のほうが安全ではあります)
そのためには、まず筆者の主張を理解した上で解答しなければなりません。
「あなたの考え」と言ってもまず本文理解ができた上ではじめて成り立つ問題なのです。
小論文試験や総合問題であれば、問題文中の情報を分析するところがスタートラインです。
英作文でも、本当に何でもアリな『自由作文』は稀で、ほぼ必ず設問の条件指示があるはずです。例えばザックリとしたテーマ設定、使用すべき言葉や表現、字数制限などです。

もし『筆者や問題作成者から一本取ろう』という意識があるならば手放すことを勧めます。あくまでも減点されない解答が書ければ勝ちです。

ああいうのって目立ったりハッと驚かせたりする答案が勝ちじゃないの?

粗があったら悪目立ちするだけだと思います。

受験生の身でプロフェッショナルである筆者相手に真っ向勝負を挑むのは分が悪いです。合理的に点数稼ぎしましょう。

ケイスケホンダに1対1の勝負なんて無理です。
泥臭く走ってパスコースを消しに行きます。
※なお、「そもそも本文の内容が分からない」という方は、論述の前に論理的読解力を養う必要があります。論理力については、当シリーズ「論理的思考のコツ・本質講義」をご参照下さい。
「あなたの考えを述べなさい」の書き方、解答の具体例

せっかくですので、「子どものSNS問題について」という本文を想定した模範解答を書いてみます。
カンタンに注釈します。
→筆者の主張を踏まえてますよアピール、更に論点を絞って論じやすくする効果もある。
→とりあえず筆者の主張を一理あると認めて、フォローになる論拠を付け足しておく。(あとで自己主張を通すためにあえて譲歩するテクニック)
→筆者の主張も認めつつも、自己主張を通すために別の論点を仕込む。ここで「しかし、~積んでいるのだ」と逆接+断定で持ってくると反論の色が強くなるので避けた。あくまで別視点の付け足し。(「子どもの自主性」と「大人の監督責任」との対比構造)
→③で仕込んだ論点に対する解決案としての「私の考え」でフィニッシュ。筆者は大人サイドからの意見で、こちらは子どもサイドからの視点にしている。
実はコレ、以前の記事の
を記述に応用した解答技術です。
ここでは「一般論vs筆者」ではなく「筆者vs自分」の構図ですが、結局はただ定番のパターンに当てはめているだけです。

筆者の意見を主軸にしつつも、それを上手く利用するのが理想です。
ちなみに、上でナンバリングした①~④をそのまま段落番号として考えることも出来ます。
その上で、適当に具体例やつなぎの文章を肉付けしてあげれば、数百字の論述にもできます。
問題作成者や採点官ウケもある程度は忖度する

よし、ならアメリカ大統領の意見を使おう。
「地球温暖化はフェイクニュースである。」

それはさすがにやめておいた方が良いかと思います。
確かに、記述試験というものは、「本来は」思想の価値を評価するような試験ではありません。
ですが、問題作成者や採点官にウケの良い答案というのもある程度は忖度することを推奨します。
例えば、「いかにして地球温暖化を防ぐか」に関する文章が題材として出題されていたとします。
そのような題材を選んだということは、作問者も採点官も「地球温暖化は防ぐべき」という前提で物を考えていると言えます。(もっと言うと、政府や国際世論との足並み)
そこで仮に地球温暖化懐疑論でガチガチに論理武装していたとしても、出題側のスタンスに真っ向から反するような尖った答案はあまりオススメできません。
受験先がよほどリベラルで何でも許容するようなスタンスならばさておき、そうでなければ採点官の心象を悪くして減点されるリスクを余計に増やしかねません。採点官も人間ですから、保守的な採点官ほど心象を悪くしてしまう危険性があります。
※中高の入試試験であれば、なおさら「教育上望ましいであろう内容」が求められるかも知れません。

受験生としては1点でも多く得点を稼ぐことが目的ですから、主義主張は脇において合理的に点数稼ぎをした方が良いと考えます。
『独創的・個性的な意見』は既に先人が研究し尽くしている
大事なのは、「論理的に筋が通っていて減点されない」解答です。(かつ、無難な内容)
自分の心の中では賛同していないような考えでも、解答として使いやすい確実な知識があるならば合理的に平然と『利用』しましょう。
逆に、本音だけど根拠を示せないような尖った主張は控えたほうが無難です。

解説によっては「独創性や個性が大事だ」という説明も見かけますが、それはどうなのでしょうか?

そこは実際に解説している人がどういう意図で話しているか、あるいはどのような試験を念頭に置いてるかで違ってきます。
※例えばグーグルの入社試験と日本の一般的な大学入試とでは求められる人材も合格枠も全く変わります。

なにが本当に正しいのか不安になってくるなあ。点数的な意味で。

少なくとも、本当に「誰も考えたことのないような画期的な意見」という意味での『独創的な答案』はまず書けません。そのような論証ができたとすれば、それは学会レベルの『発見』にほかなりません。
有識者や専門家が誰も主張しないような意見というのは、そのほとんどが「既に分析され尽くした結果、誰も主張しなくなった意見」か、「分析するまでもないロジック」かのどちらかです。
ましてや、ビジネス分野でのアイディア募集ならさておき、入試問題は基本的にアカデミックな論点を一般受験生向けに絞って出題することになります。
それはつまり、専門の学者が研究し尽くしている内容から出題されるということを意味します。
一般に「ありきたり」と思われるようなオーソドックスな主張というのは、そうした先人たちが長年に渡って議論した結果として積み重ねてきた有力説である、とも言えます。
それに対して、ほとんどの受験生の答案というのはオリジナリティ以前に論理・文法・専門知識・語彙力が不十分です。ましてや採点官側は数十年来にわたって勉強している先達です。

独創的な『新発見』を目指すのも個人の自由ですが、合理的に考えるならばオーソドックスな主張を論理的に正確に書くことを最優先課題にすることをオススメします。
あくまでも設問の指示が前提、いったい何の独自性なのか
もしも仮に、本当に「あなたのオリジナリティを遺憾なく発揮して自由に論じなさい」と設問で明確に指示されていれば、確かにオリジナリティが問われることになります。
ですが、本当にそのような意図の指示がされているのかが問題になります。
例えば、「あなた独自の体験を具体的に述べた上で、本文に対するあなたの考えを述べなさい」という設問があったとします。
そうすると、ここで問われている独自性は『あなたの体験談の』独自性です。
それに対して、この設問の主要論点はむしろ体験談をいかにして「課題文への解答」になるように結びつけられるかという部分にあります。
なぜなら、この設問で問われているあなたの考えというのは「本文に対するあなたの考え」であり本文が前提だからです。
この設問の文は、実は前半部と後半部で別の指示になっているということです。

つまり……どういうことだってばよ?

体験談の部分はオリジナルで書くように指示されてるけど、体験談を踏まえた主張の部分はちゃんと本文に対応させてねってこと。

受験者に与えられた自由裁量の範囲はどこまでなのか、求められる独自性は何に対する独自性か……結局は設問の指示を書いてある文言通りに解釈することが第一ということです。
まとめ
「筆者はこう述べているのに対して、私はこう考える。」
これではじめて問題文と解答者との「問答」になります。
「正確な論理的読解」と「適切な論理的解答」、これを学力としてテストしているということです。
この2点が正しければ国語・英語・小論文では点数がつきます。
逆にこの2点を無視した『独創性』に点数はつきません。
結局のところはどのような科目や試験でも問題文の分析が大前提です。
スノーボードで話題になった「(選手独自の)スタイル入ってますね」というのも、基礎技術が高い水準まで磨かれてこその個性です。
あるいはサッカーで新技の開発をいくら頑張っても、基礎技術が伴っていなければ対人の試合本番では使い物になりません。

国語や英語という学科は、その先にある学問や社会活動に必要な基礎力のためにあります。
※なお、「論理的思考がよく分からない」という方には以下のシリーズがオススメです。
※記述試験においては筆記用具も厳選するべきです。
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