今回は、いよいよ文章全体の構造を俯瞰視点(=鳥の視点)から見ていきます。
ここまでの記事は、「国語はセンスだからどうしようもない」という発想から脱却してロジックの世界に入門するための足がかりとなるような論点を最優先に解説してきました。
その中で触れてきた、「ミクロ視点」「マクロ視点」といった2つの方向から文の「階層構造」について考えていきましょう。
マクロ視点:文章構成図・アウトライン・ツリー型の比較
【2019/01/31追記】

まずは、対比構造の解説記事で使ったシンプルなアウトラインを基に、文章構成を図示してみます。
以下に示す文章構造図・アウトライン等は文章構造のマクロ視点を分かりやすくするためのツールです。
文章読解の際には、一般的にミクロ視点よりマクロ視点の方が見落とされがちですので、まずは文章のマクロスケールからカンタンに見ていきましょう。
まずは、別記事で挙げたアウトライン例に、以下のような段落番号を振ります。太字で緑の丸囲み数字が段落番号です。
※内容はただの参考例なので気にしないで大丈夫です。
1 問題提起
①(1) 前フリ:「一般には、負債は少なければ少ないほど良いこととされている。」
②(2) 問題提起:「しかし、無借金経営には大きなデメリットも存在する。」
2 本論A:一般論=無借金経営の問題点(筆者の主張のための布石)
③(1) 運転資金:自己資本の大きさに制約される
④(2) 成長期:設備投資に資金を割けない
3 本論B:筆者の意見=借金容認(問題点の解決)
⑤(1) 運転資金:流動性に余裕が出来て売上の増減にも対応できる
⑥(2) 成長期:設備投資で事業拡大の機会を逃さない
4 ⑦結論:「場合によっては借り入れをするメリットが大きい」(筆者の主張)
以上のアウトラインを図にすると以下のようになります。
左図のような文章構成図は、あくまでもマクロスケールの段落構成を直感的に理解するためのものです。
ですが、左図のような書き方には、ある問題があります。
第一に、文字情報を大幅に削ぎ落とすことが求められるということです。
活字を読むこと自体が苦手な場合、あるいはもっと抽象的なモデルから文章構成を考えたい場合は、文字を削った方が分かりやすくなるかも知れません。
しかし、1行単位のロジックであれば難なく読解できる程度の能力があれば、図に起こす前の元のアウトラインの方がよりロジカルに文章全体の中身を理解できます。
第二に、文章の階層レベルが多くなってくるにつれて、逆に複雑な図になってしまうという点です。
階層が3レベル・4レベル・5レベル……となってきた場合、ロジックよりも視覚的なセンスの方が求められることになりかねません。
もし複数レベルの階層構造を図示するならばツリー型の方が向いています。以下はシンプルにモデル化してみましたが、自分で実用化する場合はもっと具体的な中身を表現しても良いです。
大学以降で論文等を書く際には、文字情報を削ぎ落とした直感的な捉え方よりもアウトラインに落とし込む方が一般的です。より現実的な話を付け加えると、Microsoft Wordでの文章構成のベースがまさしくアウトラインであり、いわゆるレジュメがその代表例です。
ちなみにWordやExcelにもオサレな図を作る機能がありますが、それらもほとんどがアウトラインの発想をベースにレイアウトされています。
また、高校生でも小論文試験対策を行なう場合は、アウトラインを書くところから練習することを推奨します。
更に言うと、上位校を目指すような小中学生であれば、早い段階からアウトラインに慣れ親しんでいった方が文章構成力に差が出ます。(アウトラインについては後の記事でも具体例を交えて解説しています。)
あくまでも国語や英語の長文読解は論理的思考による本文分析こそが基本です。

図はあくまでも思考整理の補助であり、マクロスケールの文章構造を理解する前提として一文ごとの精読を深める必要があります。
当シリーズ「論理的思考のコツ・本質講義」は、読解・記述をロジックの本質から徹底解説するシリーズです。そのため、ここでは文章構造をよりロジカルにつかむことの出来るアウトラインを推奨しています。
ですが、当シリーズのようなロジックの本質を学ぶにはまだ早い段階の方、あるいは文章の具体的な内容よりも抽象的な機能に注目する場合は、直感的な図の方が理解に役立つかも知れません。
つまり、どちらが正しいということではなく用途が違うという話です。

よく分からなければ、まずはもっともシンプルな形である2つのレベルから文章構造を捉えることをオススメします。
レベル2の文章構造というのは、カンタンに言えば大きなカタマリと一つ一つの小さなカタマリであり、文章構造における基本中のキホンです。
以下のアウトラインで言えば、「問題提起」「本論A(問題点)」「本論B(解決策)」「結論」が大きなカタマリで、各段落が小さなカタマリです。ここでの「結論」は一つの段落で大きな結論部のカタマリも兼ねている形です。
「ミクロ視点」「マクロ視点」とは

それでは、文章の構造を考えるにあたって必須の観点である「マクロ」「ミクロ」についてカンタンに説明します。
マクロ視点は巨人の目、ミクロ視点は小人の目
ミクロとマクロを一言でカンタンに表すなら、「ミクロは小人、マクロは巨人」です。
具体例を挙げていった方がイメージがつかみやすいと思います。
- マクロ経済と言えば国全体レベルから見た経済、ミクロ経済と言えば会社や私たち個人の家計レベルから見た経済活動の話です。
- 社会科学は人間をマクロ的な集団を単位に、人文科学はミクロ的な個人を単位に研究するのが基本です。(文系志望で学部選択に迷っている方はまず社会系か人文系かを選ぶと良いです。)
- RTS(戦略ゲーム)でマクロと言えば最終的な勝利に至るまでの大まかな方針や流れ、ミクロと言えばその時々で最速・最高効率の動きを目指すことです。(ゲームによってスケール感は変わります)
- 自然科学の観測機器の中でマクロなものは人工衛星、ミクロなものは顕微鏡です。
- マクロコスモスは天体レベルの大宇宙、ミクロコスモスは私たち人間のスケールの小宇宙です。

マクロとミクロは完全に分かれているわけではありません。私たちの世界は、これらマクロとミクロが複雑に絡み合って成立しています。(記事の中でもわざとミクロとマクロの順序を入れ替えています)

TASさんが超絶テクニックで1フレームずつ時間短縮するのがミクロで、攻略ルート自体を変えて数十秒削ったりするのがマクロね。
たしかにどっちも大切だわ。
下にあるものは上にあるもののごとく、 上にあるものは下にあるもののごとし。

実際は、マクロとミクロの二極の間に無数の階層があります。エジプトのピラミッドの底辺から頂点まで続く段差みたいなものですね。
ミクロ・マクロ・メゾ視点の違いと階層構造を「地図の縮尺」で掴む
マクロとミクロの感覚がカンタンにつかみやすいのは、地図サイトでの地図の縮尺です。
この記事を見ているみなさんはネットが使えるはずですから、もし感覚がイマイチつかめなければ、グーグルマップでズームイン・ズームアウトをしてみてください。
※通信量にはご注意下さい。
ストリートビューのような路上の視点がミクロのレベル、そこからグーンと手前に引いて色々な大陸や国が見えるのがマクロです。その中間に様々なスケールがあることが分かるかと思います。
ちなみに、ミクロとマクロを両極と考えた時に、その中間に当たるスケールの視点をメゾ視点と言います。ただし、中間の領域は無数に存在するため、メゾという言葉はミクロ・マクロとは別に何か特定の中間部分を切り口として示したい場合に限定的に使うケースがほとんどだと思います。
例えば、日本政府がマクロ、市区町村がミクロだとした場合、都道府県や広域自治体がメゾと言えます。

では、実際の地域を例にそれぞれカンタンに見てみましょう。

ならオイラの住む東京スカイツリーで……。

東京スカイツリーは住むところじゃないわよ。

なら私の住む長崎の地にしましょう。
まずマクロ視点の出発点は、私たちの住む惑星、地球です。

出身地はアースです。

宇宙を股にかけるプロフェッショナルのスケールです。テラフォーミング技術が開発されれば、ここに火星などの惑星スケールの選択肢が付け加わることになるでしょう。

改めて見ると、日本も地球から見たら島々に過ぎないのですね。

そのとおりです。尺度が変われば見え方も変わります。ここで注目すべきは、マクロの地球の中は一段階ミクロスケールである国々から構成されている、ということです。
ここからスケールが一段階ずつミクロに向かっていきます。
- 日本は九州や四国、本州、北海道などで構成されています。
- 九州は長崎佐賀福岡熊本etc……から構成されています。
- 長崎は壱岐・対馬・五島・島原・軍艦島などさまざまな地域で構成されています。
- 長崎市街地にグラバー園や世界遺産の大浦天主堂など色々な観光地があり、その中に平和公園・平和祈念像もあります。(ミクロ)
このように、物事は「階層構造」を成しているのです。
つまり、「大」の中に複数の「小」があり、その「小」の中でさらなる「小」に分かれていくということです。
文章構造でのミクロ・マクロ視点

イメージもつかめたところで、文章の「階層構造」に入りましょう。
文章の「階層構造」を抽象レベルから分析
論理・ベン図の回でおまけとして載せた図です。タマネギの断面のように多層的な構造になってます。
各要素の細かい説明は別の記事でそれぞれ進めますので、ここでは全体像をカンタンに見ていきましょう。
文章
まず、当然といえば当然ですが、文章があります。
ここで注目すべきは、文章には全体のメインテーマ・方向性がある、という点です。
例えば、「論理力について解説するシリーズ」のなかで唐突にゲームの話題やパロディが入ってきたり数学の話をしたりしたところで、結論としては国語や英語、あるいはより包括的な総合学習の方向へと向かうはずです。
当シリーズが最終的に『料理人の道』を説いて結論になることはまず考えられないはずです。
文章を読む際には、大きな方向性を見失わないようにしたいものです。
意味段落
そして文章の中にはさまざまな段落のまとまりがあります。
学校では「意味段落」として学んでいるはずです。
例えば国語教育についての文章ならば、はじめに「現代日本の国語教育は~が課題だ」と問題提起があり、「国語力というのはA、B、Cがあり~」とそれぞれ分析するパートがあり、「国語力を身につけるには~」と具体策を示すパートがあり、結論パートで「さあみんなで国語をやろう」といった感じで〆る、という要領です。

各記事の上の方にある目次のように大まかに構成をまとめたものを「アウトライン」と呼びます。これが国語で扱うマクロ構造の骨組です。
段落(形式段落)
そして、意味段落はいくつかの形式段落で構成されます。原稿用紙で最初の「1字下げ」をするアレですね。
イメージとしては、例えば意味段落というパッケージの中に抽象論の段落、具体例の段落、主張の段落が小分けで入ってるような感じです。各段落の役割や段落数はその時々で変わります。
文
そして、一つの段落はいくつかの文で構成されています。一行で一段落を構成している場合もあります。
「接続詞」は、この文同士をどのように接続するかで意味のつながりも全く変わってくるからこそ重要なのです。
- 『スポーツは才能が全てだ。そして、努力もその才能に含まれる。』←2行目は1行目の付け加えで、特に強調する役割は見受けられない。
- 『スポーツは才能が全てだ。しかし、実際は努力もその才能に含まれる。』←1行目は前フリになって2行目の方が主張として強調されるのが一般的。
この接続詞は更にマクロレベルである形式段落・意味段落の接続関係も変えうるものです。
マクロレベルの接続を理解することは、マクロ構造自体を理解することと同義です。
この点は後の記事で解説します。
語彙・漢字
そして、文は単語・品詞で構成されています。
単なる初学者向けのテストと思われがちな文法問題が実は文章読解におけるミクロの基礎なのです。
一目でわかる!アウトラインで文章構成の階層表現

ここで、文章構成の階層表現が一発で『見える』ページを紹介します。
この答申は小論文より遥かにスケール感が大きい文章ですが、アウトラインとしては手本のような作りです。
階層表現を具体的に説明すると以下のようになっています。
- レベル1(大項目):「Ⅰ」「Ⅱ」の行(「はじめに」と「終わりに」も一応ここ)
- レベル2(中項目):「第1」「第2」「第3」の行
- レベル3(小項目):「1」「2」「3」の行
- レベル4以降:リンク先を見ると丸囲み数字やカッコ数字などで更に細分化されている
※レベル分けに使う記号などは各所のフォーマットによって変わりますので、もしアウトラインを使える場面があれば提出先等で使われている書き方に合わせましょう。

「階層」っていうのはなんとなく分かりますね。

うん、目次の「形だけは」見やすいかな?中身は分からないけど。
※アウトラインの中身自体を理解するためには論理的読解力が基盤となります。

大学受験の論述試験などでは作文形式の解答になるかと思いますが、下書き段階では階層の作り方を実際に真似して書いてみてください。清書もより速く確実に書けますので、結果的に得点力も伸びます。

「急がば回れ」ですね。でも、こういう『お硬い文書』でも数字をつけて箇条書きにしたりして見やすさ重視にするんですね。

論文でもレポートでも会議資料でも一般教養レベルの話です。
上で挙げたリンクの例はいわば報告書ですので、通常の作文形式とは違って最初から見やすさ重視で書かれています。
しかし、作文形式であろうとも同じように文章構成のアウトラインが根底にあることには変わりません。よほど砕けたエッセイ形式でもない限り、マクロスケールからもロジックの展開が組み立てられています。
一方で、入試問題の問題作成者は国語・英語のプロです。ですので、国語や英語の長文問題においては当然ながら問題作成者もマクロ視点から文章構造を精密に分析した上で問題作成しています。(言うまでもなく一字一句のミクロ視点からの分析も綿密に行なっています)

つまり……どういうことだってばよ?

文章の見え方が全然違うって話かな。私達は頑張って木の一本一本を見てるけど、問題作成者は森全体も木の一本一本も全部見えてる状態で設問を作ってるってこと。

俺たちはそんな化け物を相手に戦っていたのか……!?

まずはただマクロ視点を意識するよう心掛けて演習に取り組むだけでも大きな第一歩ですよ。きっと解説の見方も変わるはずです。
だからこそ、一定以上のレベルの長文問題では受験生側にも構造的な理解が求められるということです。これはいわば、小論文でアウトラインから文章を起こす作業と逆方向のプロセスです。
ミクロ・マクロ視点は同時並行で鍛える
それでは『まずはマクロ視点から勉強すべきか』と問われれば、そうとも言えません。
いきなりマクロ視点で読み書きのできる人というのは、もともと要領の良いごく少数のタイプだけだと思います。
まずは何よりもミクロレベルで文法・論理・語彙的に正しく読み書きできるようになることが先決です。
それと同時並行でマクロ構造も意識して見直すようにするのがオススメです。
自力で構造を見抜くことが難しくても、後から解説などを見直して理解していけば少しずつでも分かってきます。やがて、展開がある程度パターン化していることに気付くでしょう。(後の記事で詳しく解説します)
マクロ構造はミクロの文が積み重なってできるものですし、逆にミクロの文はマクロ構造の一部分の位置付けにあるのです。
まとめ
ミクロ・マクロの観点はいかなる学問領域でも当たり前の話です。
学問に限らず、経済や文化、コミュニティなどにおいても、「個人レベル<家族レベル<地域レベル<国家レベル」などといった無数のレベルが確認できます。

ものごとは、色々なレベルが積み重なって成り立っているのです。
そして文章構造もその一例です。
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