「国語に必要な能力は?」という問いに対する答えは巷でいろいろとあります。
『国語は行間を読もう』『空気を読もう』『想像力を働かせよう』等など……。
それぞれ発言している人によってその意図もまた違ってくるでしょう。
私の答えはこうです。
「文章を正確に読んで問いに答える能力」
この点について、カンタンな例題で見ていきましょう!
それ、「本文から」読み取れる?

では、早速カンタンな例題を出しますので一緒に考えてみてください。
例題
問 次の文章を読んで問いに答えよ。
- 地球温暖化対策のために、二酸化炭素の排出量を削減すべきである。
- 地球温暖化問題について、議論を急ぐべきである。
- 地球温暖化問題について、よく考えることが大切だ。

とても単純な例題ですが、普段の国語の試験問題と同じように考えて答えてみてください。
本文に無い知識を勝手に解答根拠に使わない
「地球温暖化対策のために、二酸化炭素の排出量を削減すべきである。」

あっ、二酸化炭素は温室効果ガスだから削減しないと!だから○!
……答えは×です。

えー!?
なぜなら、「本文に書いてないから」です。
そもそもこの本文では『二酸化炭素の排出量』については何も言っていません。

でも、常識的に考えたら○じゃないの?

では、もう一度問題文を『最初から』読んでみてください
実は、国語の試験のほとんどにはこのような指示があるのです。
国語は単純な知識問題とは違います。
『次の文章』の文言から読み取れないことは間違いなのです。それは他教科で設問の指示を無視しているのと同じ話です。
数学で言えば、「x=3とする」のような問題設定を無視して勝手にx=4を代入して解くようなものです。

え~、でもやっぱり納得できないな~

では、この本文の筆者をお呼びしました。どうぞ。

筆者です。実際のところ、地球規模の環境問題というのは因果関係の解明が難しいのです。私は、太陽活動その他の影響も大きいのではないかと考えています。それも仮説に過ぎませんけれどもね。具体的な排出量取引などの政策判断は政治に委ねます。

意味はよく分からないですが勝手に決めつけてすみませんでした。
「言い過ぎ」に注意
「地球温暖化問題について、議論を急ぐべきである。」
……答えは×です。

えー!?だって本文に「世界的な問題」とか「議論すべき」とかちゃんと書いてるのに?

では、「急ぐべき」というニュアンスはどこから読み取りましたか?

「世界的問題を議論すべき」って言ってるから筆者も急ぐべきって思ってるんじゃないのかな?
これが俗にいう「忖度」です。
特に日本人の国民性として根強い部分だと思うのですが、「この人がこう言ってるからきっとこう願ってるんだろう」と推察しすぎる傾向がよく見られます。確かに、日常の場面でお互いを気遣う配慮というのは人間関係に役立つ場合もあるでしょう。
しかし、国語ではその『急ぐ』というニュアンスの根拠が本文から読み取れないと論理飛躍になります。

筆者です。地球温暖化は世界的な問題だからこそ、拙速にならず丁寧によく議論すべきだと思っています。
なお、ここで間違いになるのは「本文に書いていない」言い過ぎであって、逆に筆者自身が極論を主張しているならばその極論が正解です。
「言い換え」は慎重に:同義語・類義語の重要性
「地球温暖化問題について、よく考えることが大切だ。」

あっ、×だ!「よく考える」とか「大切」とか書いてないもん
答えはほぼ○です。

どういうことなの……

本文にある「よく議論」することって、選択肢の「よく考えること」の中に大きく包括されているとは言えませんか?
※この考え方は後の記事で詳しく解説しますが、別の言い方をすると、「よく議論する」と言った時点で「よく考える」ことも必然的に必要になるということです。(加えて、「考える」という言葉自体が何にでも当てはまりそうな広い概念である)

逆によく考えもしないでしゃべる議論なんて議論とは言えないですね!じゃあ「大切だ」は……。

本文では「議論すべき」と書いてありますね。「すべき」と筆者自身が言ってるのですから、重要性を主張していると言えます。だから「大切だ」というのもほぼ同義と言えます。
これはいわゆる『言い換え』の問題ですが、ここでいう「ほぼ同義」「含まれる」という判断が国語の繊細な部分です。
人間が書いている以上は、どれだけ厳格に分析したとしても、コンピューターのプログラムなどと違ってどうしても「100%同義の置き換え」とはいかない側面があります。
そして、この辺りのアバウトさこそがAI開発でも苦心している部分でしょう。
実際に安定して高得点を取れる人が「行間」や「想像力」、「センス」という言葉を使う場合は、この機械的には判断できない部分を補完するための合理的な推論のことを指す場合が多いはずです。
(※もっとも、国語や英語の問題であれば普通は「類義語辞典から導き出せる範囲」で言い換えるとは思いますが)
択一式ではなく正誤問題であれば……それでも私の経験則からすると普通は同義語の言い換えで○になるはずです。
話を戻しまして、文章読解問題における鉄の掟があります。
それは、ここで私が実演しているように、「言い換え」でも根拠は必ず本文・問題文から示すということです。
逆に、例題1・2では本文のテキストから読み取れない解釈を付け足している点が問題であると言えます。
なお、上では「べき」という文法知識をテクニックとして利用しているのですが、その点は別カテゴリーで綿密に解説していく予定です。
まとめ
当シリーズの初回においては、以下のように述べました。
こうしたことが起きるのは、国語の試験が作者の主観的な意図ではなく文章の文言から客観的・論理的に読み取れる範囲を根拠に設問が作られているからです。
もしこれが本当に作者の心の中を読み取る試験だとすれば、それはもはや学力検査ではなくテレパシー試験です。
国語が苦手な生徒さんというのは、十中八九がまず問題の本文を書いてあるままに読めていないことが原因です。本文が読めていないのに読解問題の設問が解けることはないはずです。当たったらただのマグレ当たりです。
読解のコツというものは人によって微妙に違ってくるとは思いますが、「本文をなるべく文言通りに読もう」と普段から意識して問題に取り組むことができるようになれば、国語力の成長のための大きな第一歩になります。
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