その日本語の省略された主語は誰?述語の動作主体が国語の読解問題で盲点に|論理的思考のコツ⑦

日本語は述語の主語が省略される、国語の問題ロジック本質講義~国語・英語・長文読解のコツ

 

日本語は英語と比較して、主語の無い文』というのがフォーマルな文でも当たり前のように使われます。それでも日本語としては特に問題なく意思疎通ができますし、文法的にも認められます。

 

しかし、その習慣は国語では盲点となります。

「それは筆者の主張なのか?一般論なのか?他の第三者の主張なのか?」

それだけで問題の答えというものは全く違ってきます。

 

当記事は、言語学的に厳密な分析には立ち入らず、長文読解の際に必要となる範囲で主語について解説します。
なお、日本語ネイティブの場合は、まずは日本語の主語について理解を深めないと英語の主語もイマイチ掴みにくくなるように思われます。

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論説文:その意見、誰の主張?

 

前回の例題の続きです。

筆者の考え・主張は本文の記述が全て!それってあなたの感想ですよね|論理的思考のコツ⑥
『それは明らかにあなたの感想ですよね?』 国語・英語の論説文でも物語文でも、「筆者が本文でどう書いているか」が全ての根拠です。 本文を客観的に分析するためには、「自分の感情を排除してロジカルに読解する」ことが重要です。 『あなたの考えを述べなさい』という設問も、まずは相手の主張を論理的に理解することが前提で、文章の主旨と論理的に対応するように解答することが求められます。 これは国語や英語の問題に限らず、小説の評論や読書感想文、商品レビューにおいても同じです。独創性はその先にあります。

 

例題

 

次の文章を読んで問いに答えよ。

①近年、地球温暖化対策が世界的に問題となっている。
②その主眼となるのが、温室効果ガスの削減である。二酸化炭素の削減もこれに含まれる。温室効果ガスを削減することによって、温暖化が食い止められると識者は主張している。
③この点について、よく議論する必要がある。

問1、以下の選択肢の内容が筆者の主張として適当か否か答えなさい。

(1)地球温暖化対策を推進していくべきである。

(2)温室効果ガスを削減することによって、地球温暖化が食い止められる。

 

主語が脳内補完される日本語

 

「(1)地球温暖化対策を推進していくべきである。」

これが×というのは前回解説しました。

 

では質問です。この選択肢の文の主語は誰でしょうか?

 

うーん、「地球温暖化対策」?

それだと「地球温暖化対策」ってなるんじゃない?

……でもそうなったら「地球温暖化対策推進されるべきである」?文が受け身の形に変わっちゃった。

 

「が」は、一般的に主語を作る格助詞ですね。それに対して、この「地球温暖化対策を」の「」というのは何ですか?

えーっと、検索したら……『動作・作用の目標・対象を表す』これですね!目的語だ!

そうですね、ここでは目的語をつくる格助詞ですね。……では主語は?

 

筆者

読んでる私たちに勧めてるんじゃないのかな?

どちらもアリですね。……つまり、主語が自然に脳内で補われているのです。

 

「地球温暖化対策を推進していくべきである。」

 

この文を、問いの筆者の主張として適当か~」に対応する答えとして考えるとこうなります。

筆者は(主語) 「地球温暖化対策を推進していくべきである」と(目的語・節) 主張している(述語)

このように、読み手・聞き手が無意識に主語を補って成り立つ文といえます。

 

なお、記述式の問題で「筆者の主張を答えよ」と問われたら、このように「筆者は~と主張している。」と、問いかけに対応する形でなるべく省略せずに答えましょう。問いに対する答え方については後の記事で取り上げます。

 

『世間一般』や『あなた』はよく省略される主語

 

「地球温暖化対策を推進していくべきである。」

 

読んでる私たちに勧めてるんじゃないのかな?

このケースで考えると、この文は実際に文を読んでるあなたに対して、というよりも不特定多数の世間一般の人を想定して言っています。

 

具体的に表すなら

あなた=世間一般の人は(主語) 地球温暖化対策を 推進していくべきである。

こんな感じです。

 

……日本人の感覚としては、いちいち「あなたは~」「世間一般の人は~」とは補わないですね。

「本文をちゃんと読むことですね。」「知らない言葉ググります。」「防災意識を高めるべきだ。」「自然を大切にしましょう。」

これらの文は全く問題なく通じます。言語学的にも咎められません。

 

ちょっと待った!「知らない言葉ググります。」ってのは、「知らない言葉」ってのが主語じゃない?

では、「」を「」に置き換えてみてください。

「知らない言葉ググります」……?んなこたあない。

ググるのは人間だろう。

 

あれっ?「」って、調べてみたら係助詞格助詞じゃないんですね!

結局、「ググる」という動詞に対して「私は」という動作の主体を省略しても日本語の文として普通に成り立つということです。

普通に成り立つからこそ逆に自覚するのが難しいとも言えます。

 

これと比較して、英語は基本的に主語を言います

You(主語) should(助動) promote(動詞 measures against global warming.(目的語)

 

この「You」、あるいは「We」が英語の論説文で使われたら、特定の誰かを指すのではなく「世間一般の人」に向けた文になることがほとんどです。

一方で、この主語になっている「You」を抜いたら文法的に破綻します。ブロークンです。(ネイティブの日常会話での省略はフォーマル英語とはまた別の話です。)

あるいは、Promote~と動詞から始めてしまうと、文法的には命令文となりニュアンスが大きく変わってしまいます。

 

逆に、「この英文を和訳しなさい」と問われて、いちいち「あなたは地球温暖化対策を推進するべきだ」と書いてしまうと日本語としてのニュアンスが変わってしまいます。広く世間に対して主張したいのに、『あなた』独りに対して面と向かって話してるようなニュアンスの日本語になってしまいます。
そのように考えると、むしろ日本語では主語を抜いた方が良い場面もある、とも言えます。

 

この隠れた主語「世間一般の人」というのは論説文では頻出です。

そして、その『世間一般の人の意見』というのが「問題提起」にも「筆者の主張の正当化」にも「逆に一般論を否定するための前フリ」にも使われるからこそ要注意なのです。

 

世間一般の意見を筆者自身の主張と見分けないと情報の整理がつかなくなってしまいます

 

もちろんこの選択肢の文のように、筆者が自身の主張を投げかけるための相手としても「世間一般の人」という隠れた主語は使われます。

 

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隠れた主語を見分けるコツは動詞

 

ここまで、国語や英語の文章読解において隠れた主語がいかに大切かについて述べました。

対して、「そもそも隠れた主語をどうやって判断するか」という疑問を持たれるかも知れません。

 

隠された主語を見分けるコツは、動詞にあります

 

例えば、先ほどの一文を見てみます。

地球温暖化対策を推進していくべきである。

 

では質問ですが、地球温暖化対策を推進していくのは誰ですか?

偉い人とか学者様とか意識高い人たちとか色々じゃね?

各国政府とも言えますし、大企業も色々とPRしてますね。でもやっぱり、私たち一人ひとりの行動が大切じゃないでしょうか。

 

先ほどの段落では、そうした不特定多数の人々をまとめて「世間一般」と呼んでいたということです。ここにはもちろん読み手も含まれます

そしてこれを言い換えると、いわゆる一般論ということになります

 

こうした動詞に対する意識は、先ほどの英語のケースで考えると更に顕著となります。

You(主語) should(助動) promote(動詞 measures against global warming.(目的語)

 

ここで目的語の「measures against global warming」がそのまま単独でポンと出てきたとしても、主語など関係なく「地球温暖化対策」という一つの名詞として普通に成り立ちます

現に日本語で「地球温暖化対策」と言う時も、別に主語など関係なく普通に概念として分かります。

 

ですが、フォーマルな英文でいきなり「(should)promote(動詞 measures against global warming.(目的語)」と出てくると困惑するはずです。

 

あれ?主語Sは?これって命令形?

そのように困惑した原因は、動詞Vにあるはずです。英語の場合は、それだけ主語S+動詞Vの結びつきが強いということです。

 

以上のように、迷ったら「この動詞の動作主体・主語Sは?」と判断してみてください

※ただし語彙力不足で文の意味が分からない場合は別問題です。

 

be動詞の場合は、補語Cに当たる名詞や形容詞が重要になってきます。ですがこの場合も、be動詞という動詞Vが判断の基点となっていることには変わりありません。

 

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物語文:その行動・心情はどの登場人物?

 

主語を把握しながら読むことは、物語文においても重要です。

 

物語文で求められる読解要素というのは、だいたい以下のとおりです。

  • 登場人物の心情とその変化
  • 各場面における登場人物の行動・言動等
  • 筆者の表現技法

 

表現技法等を問う問題は限られますので、実質的に中心となるのは登場人物となります。

だからこそ、登場人物ごとに情報を区分できないと的外れの解釈になってしまいます

 

単純な話では、会話文の主語です。

会話文は、登場人物の言動がそのまま文字として表現されます。これは設問のロジックを考えるにあたっては絶対的な根拠になりえます。

しかし、そもそも誰の会話かを取り違えるとロジックが全く変わってしまいます。これは致命的な誤読と言えます。

 

会話文はまだ分かりやすい方ですが、地の文で心理面や行動に関わる表現がされた場合は特に注意が求められます。

例えば、「空にも、暗雲が立ち込めていた」という表現が暗喩や象徴の観点から設問にかかわってくるとすれば、それはどの登場人物の何を暗示する表現かが分析対象になることでしょう。

そうした分析をするためには、本文中に出てくる描写がそれぞれどの登場人物の描写かを混同しないということが前提です。人物を取り違えると全く別の話になってしまうからです。

 

物語文に苦手意識のある方は、まずは主語が誰かを一つ一つ明確に意識することが理解につながるかもしれません。

いっそのこと、主語をその都度メモしてみるのも一手です。もちろん特に登場人物のかかわらない客観的な状況説明のパートもありますので同じく区別します。(強いて言えばナレーター役が主語)

 

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まとめ

 

日本語の情緒性というものは、それはそれで文化的な価値の認められたものです。主語をいちいち書かないというのもそうした情緒の一つなのかもしれません。

 

しかし、国語や英語の試験において、主語を見失うのは失点に即繋がりかねない盲点です。

選択肢の内容が99%本文と同じであろうと、主語が別人というだけで誤りなのです。

 

実はこの点は古文にこそ顕著です。古文は「主語・目的語が誰かを補う」というのが解答のための大前提です。そのためにあるのが尊敬語や謙譲語などの文法知識なのです(詳しくは別記事で特集しています)。それを知らないと、『知ってる側』の受験者と同じスタートラインにも立てないのが古文の試験です。

 

今回の記事を踏まえた上で、例題の選択肢(2)に入りましょう。

 

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一般論とは筆者の反対説!?論説文での主張・反論の前フリという意味|論理的思考のコツ⑧
論説文では、主語を明示していなくても「世間一般の意見ではこう言われている」といういわゆる一般論が引き立て役としてよく使われます。 この一般論を筆者がどのように利用しているかが分かれば、一気に論理的な文章読解がはかどります。 この部分は誰の主張なのか、具体例の提示なのか、反対説なのか、筆者の主張の補強なのか……といった本文の情報整理は現代文や古典に限らず英語でも意識的に区別して分析する必要があります。

 

※連載シリーズ①「ロジック基本講義(国・英・長文読解)」→ 各話リスト

※連載シリーズ②「効率的な勉強法」→ 各話リスト

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