前回記事で古文を解説しましたので、今回は漢文の勉強法を取り上げます。
漢文は現代の中国語とも異なる独特な言語ですので、言語学的な理解を求めるのは無理のある話です。
ですが、これまでの記事で解説したような現代文のロジックの本質を理解していれば、あとは少ない暗記量で得点源になります。

漢文は、論理的な思考力さえ身に着けていれば非常にコストパフォーマンスが高い科目です。

『それを捨てるなんてとんでもない!』……本当に?

現代文、特に論説文が出来る人ならば捨てるのはもったいないです!
漢文で必要な暗記学習・勉強法とは何か

それでは、古代中国の漢文の書き手に倣い、シンプルかつロジカルに解説していきたいと思います。

と言いつつもボリューム満点です。
まずは、「最低限の暗記勉強」とは具体的に何なのかについて分析していきます。
返り点はただのルールなので覚えるだけ、算数の計算と同じ
まず、何よりも押さえるべきは返り点です。
返り点とは、いわゆるレ点や漢数字の一、二といった記号のことです。
教科書的な説明はお手元の教材に書いていると思いますので、違う観点から説明します。
返り点というのは、古代中国の書き言葉であった漢文を自然な日本語の文章として読むためにつけられたマークです。いわば、昔の日本の学者や官僚の知恵です。

つまり、返り点を理解しないと読むことすら難しいということです。

ぶっちゃけ漢字と記号だらけで何がなんやらよくわからん。

返り点はただのルールです。
算数の四則演算と同じで、やり方を機械的に覚えるだけです。
数学の数式では、小カッコ→中カッコ→大カッコの順に計算するはずです。
これは頭で深く考えることではなく、機械的な処理です。
漢文の場合は、算数で左から右に計算するのと同じように上から下に読むのが基本です。
そのなかで、ハイフンがあれば、数式の掛け算と同じように隣同士の漢字がまず先につながります。レ点であれば読む順番がハイフンと逆になるだけです。
そして、一が来れば二・三、その後に上が来れば中・下、更に甲が来れば乙・丙……とルール通りの順序で読むだけです。結果的に、一ニ山→上中下→甲乙丙……の順番になり、数式の計算と同じような話になります。
漢文特有の暗記量(句形句法・漢字)は圧倒的に少ない!だから高コスパ
返り点の単純なルールが理解できれば、次の問題は漢字力です。
漢文の書き下し文(≒和訳)で使われる言葉、言い回しというのは当時の日本語に準じた古風な表現です。
しかし、漢字それ自体を直接イメージで理解してしまえば、そうした言い回しが馴染まなくても大体の意味が掴めます。

ちょっとタイム!よく分からない漢字だらけです!

だからこそ過去記事で『知らない言葉は即ググる(調べる)』習慣を推奨していたのです。日本人にとって漢字力は知識力そのものです。
現代文における漢字の持つニュアンスというものは、古代より脈々と受け継がれて形成されてきたものです。
漢文においては、特にこれら漢字の持つニュアンスと絡めた理解ができれば記憶が自然と定着します。
こうした漢字力というものは、一朝一夕で身につくものではありません。
これらは、国語・漢文の為の勉強というよりも、日頃からの意識的な積み重ねが効いてくる部分です。

でも、漢文で出てくる表現って同じ漢字でも現代文と結構違ったりしますよね。

そのとおりです。ここで述べているのは記憶術の一種です。漢字の現代的なイメージと漢文的な使われ方を結びつけるということです。
そうは言っても、センター試験レベル+αの漢文で出てくる独特の漢字の使い方というのは、大抵はパターンに当てはまります。
たとえばカンタンなところでは、『不能』ときたら読みは「あたはず」で、意味は「~できない」という不可能の意味になります。
ちなみにこうした定番パターンのことを句形・句法と一般に呼びます。
漢文で覚えるべき特有の表現は、試験に関係する表現でも100前後が目安のようです。
これらは、社会科や英単語に比べれば破格の少なさです。
ですので、全て丸暗記してしまえばほとんどの試験に対応できます。
仮にそうした範囲を超えた表現が出る場合でも、注釈で説明されていたり文脈で判断できたりするので、未学習の範囲に特に神経質になる必要はありません。
これだけでも点数配分に対する学習量という意味ではコストパフォーマンスが高いといえます。
数学で言う解法パターンの暗記を更にシンプルにしたようなものです。
応用:漢字表現を読解問題からインプット、イメージに関連付けて記憶

では、そうした定番パターンをまとめた問題集をやれば良いということですね?

基本的にはその方針で良いです。
ただし、私の場合はそのような形の暗記勉強をやっていません。
ここから先はもうワンステップ深い部分から理解しようとする試みです。
私は漢文については次の段落で取り上げる再読文字以外でコレと言った暗記勉強をやっていませんでした。
それでもセンター試験の漢文であれば安定して満点を取れていました。もちろん本番でも満点でした。
私にとっての漢文の基本は読解問題の演習です。
その上で、知らない漢字や表現があればその都度調べます。
これにより、句形・句法といった頻出パターンは実際の読解問題の中で自動的にインプットされることになります。

逆に言うと、実際の問題で頻出するパターンだからこそ句形・句法の暗記が推奨されるのです。
更に、漢字の知識については、なるべく漢字を他のイメージに関連付けて記憶しています。
たとえば先ほどの『能』=「あたふ」といった読みですが、これは現代で言う「能う限り」の「あたう」と同じです。
そして、英語で言えば「able」のイメージが関連付けられます。
あるいは、『蓋』=「けだし」は古文でも登場する表現ですが、ここでのニュアンスは『蓋然性』です。
そこから、蓋然性の高い「けだし」は強い推量になり、蓋然性の低い「けだし」は「ひょっとして」といった弱い推量になるというような具合です。
また、必ずしもこのように現代の表現に結び付けられなくとも、例えば『而』は特に暗記しなくとも読解問題で出てくるたびに「あっ、接続詞だから前後の接続を意識しよう」と確認していくうちに勝手に接続詞のイメージが脳裏に焼き付きます。

人間の知識というのは、PCの単純なハードディスクとは違い、関連付けのなかで記憶が強固になっていくものです。いわば知識のネットワークです。国語では特にこのような要素が非常に強いと感じます。

正直ちょっとついていけない。

実際のところ、私が個人的に単調な暗記学習を続けられない気質なので実践から学んでいただけという部分が大きいです。参考書の丸暗記で対応できるならばそれに越したことはないです。
なお、このように意識的にハッキリと関連付けをしなくとも、例えば本文で『耳』と見たら『のみ=限定』と直感的に勝手にイメージが浮かぶような記憶ができれば理想と言えます。「言葉で説明できないけど自分だけには分かる」ようなイメージ・感覚でも良いです。
ちなみに、漢字をイメージと関連付けて記憶するような覚え方は、現代の漢字検定でも非常に重宝する暗記方法です。
再読文字はたったの10文字!丸暗記で確実に得点アップ!
次に、再読文字です。
再読文字とは、最初は返り点を無視して読み、次に返り点で戻ってきたら違う読み方でもう一度読むというような漢字です。
再読文字は明白なイレギュラーですから、出題者も意識的に問題に絡めます。

イレギュラーと聞いたら何かイヤな予感がしますね。

いいえ、むしろ確実な得点源です。
なぜなら、再読文字はたった10文字だけだからです。
再読文字は暗記必須ですが、数が少ないため全部覚えてしまえば終わりの話です。
暗記量から考えるとローコストでリターンが確実なわけですから、再読文字は「まさに暗記すべし(再読文字『当』)」です。

これで話は終わりですが、せっかくですのでそれぞれの再読文字に対する私の個人的なイメージを参考に挙げます。
- 未(いまダ~ず):未だ~ない。現代の『未』と同じ。
- 将・且(まさニ~セントす):今まさに~しようとする。英語の現在進行形(と言いつつ『近い未来』として習うアレ)のイメージ。
- 当・応(まさニ~スベシ):英語の「should」。あとは文脈判断。
- 須(すべかラク~スベシ):~する必要がある。「必須」。
- 宜(よろシク~スベシ):~するのが良い。現代語の『~した方が宜しい』。
- 猶・由(なホ~ガ/ノごとシ):ちょうど~と同じようなものだ。「過ぎたるは『猶』及ばざるが如し」。
- 盍(なんゾ~ざル):『何不~』と同じ。どうして~しないのか。疑問が強いニュアンスになったら反語になって「~してはどうか」となるだけ。
なお、以上は私個人の感覚的なイメージですので、正確な部分はお手持ちの参考書や問題集のなかで確認してください。
漢文の読解問題、読み方・解き方のコツ
漢文の現代語訳:再読文字・句法・品詞などの「ミクロ視点」でも分析

漢文の数少ない暗記部分の説明は以上で終わりですので、次は読解問題の説明に入ります。
読解するにあたって特に厄介な部分は、白文だと思われます。
白文とは、返り点も送り仮名もついていない、漢字の羅列です。そしてこれこそが本来の漢文の姿です。
それでは、平成30年度(2018年)センター試験第4問の問3の下線部Aを引用してみます。
※実際の問題は公式サイト等を参照してください。モバイル等で閲覧する場合はpdfファイルのデータ通信量にご注意下さい。
丈人不若未為相。為相則誉望損矣。

なんぞこれ!?漢字だらけでワケわからん……。

う~ん……取っ掛かりからしてよく分かりません。

実際のところ、これらは句法や品詞を念頭に置いて1字ずつ分析していけば着実に選択肢が絞れます。以下、アバウトに説明します。
※実際は選択肢や文脈とも見比べて判断していきます。
まずは前文です。
- 『丈人』:注釈より、「あなた」。名詞であり、主語Sと思われる。
- 『A不若B』:いわゆる句法。定番パターン。「百聞は一見にしかず」の「しかず」と同じ。つまり『AはBに及ばない』。
- 『未』:定番の再読文字。
- 『為相』:文脈より『相』は宰相の「相」で名詞。
→そうすると『為』が浮く。動詞の「為る」?「~の為」?
いったん整理すると、前文は「あなた(=A)は未だ『為相』しない(=B)に及ばない」となります。
ここで、文脈より、この一文は話し相手(=『丈人』)が宰相として役職につくべきかどうかというお悩み相談に対する答えですので、実はこの時点で『為』を動詞Vと捉えて「未だ宰相に為らないほうが良い」のような感じで論理的整合性が取れます。
逆に、「~の為に」と解釈しようとしても、整合性の取れるような読み方は思い当たりません。
※「A不若B」すなわち「AはBに及ばない」ということは、比較演算子的に考えると「A<B」であり、「(比較すると)Bの方が良い」ということです。
それでは、試しに後文を見てみましょう。
- 『即』:接続詞的な「すなわち」。「A即B」。
- 『為相』:前文と同じで、英語的に言えば動詞V+補語Cみたいなものと思われる。意味上の主語Sはおそらく前文と同じ「丈人=あなた」。
- 『誉望損』:本文の後の方でも『誉望の損なはれんことを』とそのまま出ており、選択肢上も解釈は一致。『誉望』が主語S'で『損』が動詞Vのような感じ。これで『為相 則 誉望損』は『(S)VC 即 S'V』と接続したような形になる。
- 『矣』:いわゆる置き字。基本的に文脈判断だが今回の選択肢の文末は「~でしょう」で全会一致。
これで、後文は「相に為ったら誉望が損なわれるでしょう」という感じになり、前文とも文脈とも整合性が取れました。要するに「まだ宰相にならない方が良い」という進言です。

うーん……解説されたらカンタンそうだけど、ぶっちゃけ自分でできる自信は無い……?

ここで伝えたいのは漢文の文法的な話ではなく、ミクロ視点でパーツごとに分析する意識です。センターレベル+αであれば必ず基礎知識と文脈を基に解答できるように作られているはずです。

頭では分かっていても、試験になるとその基礎知識がなかなか上手く使えません。

過去記事で述べたように、知識はアウトプットできて初めて点数になります。だからこそ読解問題の実践過程で訓練することが大切なのです。
あとは焦らず落ち着くことです。
なお、ここで文法的に精密に「品詞分解をせよ」と明言しないでアバウトに分析しているのは、漢文学の深みに立ち入らないためです。
漢文の配点が余程高いような特殊な志願先でない限り、文法的に深入りするのは点数のコストパフォーマンス的に推奨できません。
(英文法のような説明の仕方をしているのは、もちろん英語と漢文の文法が同じということではなく、漢文の文構造の「骨格」を自分なりに掴むためです。)
漢文を趣味や専攻に据えるならさておき、そうでなければ他の学習に時間を割きましょう。
漢文の深みに入るよりも現代文や英語の学習を優先すべきだと個人的には思います。
漢文の注釈・冒頭文はヒントの宝庫!なのでスルーせずに必ず先読み
過去記事において、現代文を念頭に置いた上で注釈や冒頭文が重要であることを説明しました。
「国語は『次の文章を読んで問いに答えよ』とあるから本文こそが解答の根拠だ」という話もこれと同じです。
この点について、漢文こそ注釈や冒頭文が非常に重要となってきます。
例えば、先ほど挙げたセンター試験の平成30年度(2018年)第4問の注釈を確かめてみてください。
もちろん細々とした意味や人物の説明も読解に必要ですが、『朝廷に入って役職に就く』であるとか『君臣の関係が極めて良好であるさま』といったように、本文の核心部分がそのまま書いてあります。

なん……だと……?

もちろん実際に本文を読み進めないと重要性は分かりませんが、このように重大なヒントが仕込まれていることは多々ありますので、注釈や冒頭文を何となくスルーしないようにしてください。
参考までに、東京大学の平成30年度前期日程の国語(文科)の第三問を、冒頭文だけで構いませんので確認してみましょう。
※問題は公式サイトなどで参照
冒頭文を見ると、『人材登用などについて皇帝に進言した上書』と書いてあります。
実は、冒頭で既に本文のメインテーマが示されていたということです。
そうなると、本文で解釈に詰まった部分も「人材登用についての進言」という観点から再解釈すれば良いということです。
(ついでに、注釈の『惻怛』はそのまま下線部の設問に直結しています。)

こうしたヒントは『これさえ読めば解ける!』という裏ワザではなく、最低限押さえるべき前提です。注釈や冒頭文の重要性に気付いていなかった方は、今日からさっそく認識を変えてみましょう。
漢文は非常にロジカル!だから論理的な文脈判断が大切
漢文専用の勉強は最小限を目指し、優先すべきは他科目の「伸びしろ」
ここまで、漢文で最低限必要となる暗記学習と分析のコツについて解説しました。
逆に言うと、これら以外で漢文専用の勉強というのはあまりオススメしません。
そもそも時間や労力は有限であり、努力量に対する「費用対効果」つまり点数配分の問題があるからです。
同じ国語科で言うならば、大半の受験生は漢文の前に現代文の国語力・論理力が不十分です。
英語も数学も社会も理科も、率直に自己分析してみると点数アップの伸びしろだらけではないでしょうか。
同じ時間と労力を消費するのであれば、伸びしろのより多い領域に時間と労力を割いた方が合理的です。
漢文は主にインテリ・エリート層の文章なのでロジック重視

このように推奨する理由はコスパの問題だけではありません。漢文は論理的な文脈判断が特に重要であるという点も大きな要因です。
漢文で扱われる文章は、総じて非常に論理的でトピックが明確な傾向が強いです。
具体的なトピックとしては故事成語の元ネタの話、何かしらの教訓、あるいは政治的なやり取りなどがメインです。
これらはいずれも、心理描写を主軸とする物語文というよりも、書き手の思考をロジカルに読み手に伝えるための論説文に近いです。(漢詩は毛色が多少違いますが)
更に言うと、漢文の書き手や登場人物は、大抵は古代中国の科挙官僚や歴史的な思想家などの名だたる超インテリ揃いです。それらを日本で学んでいたのも学識の高いエリート層です。
ですので、大概はロジックを丁寧に組み立てつつも簡潔かつ正確に伝えることが目的の文章になっています。ちなみにこれは現代日本においても官僚に求められる能力そのものです。もっと広く捉えれば、ビジネス上のメールや報告書のやり取りでも基本は同じです。

私のように合理主義的な気質の人にとっては、物語文よりも論説文、古文よりも漢文の方が馴染みやすいかと思います。
具体例:平成30年度センター漢文のロジックの流れ、「論理的整合性」
例えば、先ほど挙げた平成30年度センター試験における嘉祐のロジックは、現代風にザックリ噛み砕くとこのように整理できます。
- 話題提起:寇準「世間での俺の評判、どう?」嘉祐「すぐに宰相になるだろうとみんな言っています。」寇準「君はどう思う?」
- 主張:今はまだ宰相になるべきではありません、もし宰相になったら名声を損なうことになるでしょう。(英作文やビジネス文書のように結論を先に言うスタイル)
- 論拠:昔から、賢相が功績を上げて民を養えた理由は、皇帝との関係が極めて良好(魚と水の関係)だったからです。関係が良好であったがゆえに、賢相の進言が皇帝に聞き入れられ、功績も名声もあげられたのです。(過去の事例に基づき、因果関係も明白化した分かりやすいロジック)
- 補足:(ましてや)今あなたが宰相になったら内外での天下太平を求められます。(=周囲からのハードルが高い)
- 結論:さて、あなたと皇帝との関係は良好(=魚と水の関係)ですか?(いいや、違うでしょう。)これが、「あなたの名声が損なわれるのではないか」と危惧する論拠(=所以)です。(論拠を踏まえて改めて主張)
- オチ:寇準「おお、親父さんよりもスゲェ。」嘉祐の大勝利。

丁寧でかつムダのない、シャープな論理展開です。この文章から人物の心情をセンスで忖度する必要性は皆無です。まさにロジカルです。

うーん、いまいちシックリこないなあ。

それはただ暗記勉強が足りてないだけじゃないの?

確かに知識不足もありえますが、それよりも根本的な論理的読解力が不十分であることの方が問題であると思います。そのためにここまで徹底的に解説してきたのが当カテゴリー『論理的思考のコツ』です。
漢文は言語的にシンプルである点も相まって、本文が非常に簡潔にまとまっています。
よって、現代文の訓練を中心として論理的読解力が十分に鍛えられていれば、通読することで結論に至るまでの論理展開の流れが見えてきます。
論理展開の骨格が分かれば、設問となっている部分は『論理的整合性』から考えることが出来ます。
言い換えると、ロジックに基づく文脈判断で設問部分のロジックを補完することが出来るということです。

センター試験のような択一式では、知識に加えて『どの選択肢を本文に当てはめると論理的整合性が取れるか』という観点から絞れます。
なお、先ほど挙げた東大の平成30年度の漢文も同じように論理展開が首尾一貫しています。
こちらの本文は会話形式ではなく王安石の書いた文書からの引用ですので、なおさら一行一行が理詰めの論証になっています。
マクロスケールの文章構成も、本文の最初に結論として「AじゃなくてB、BじゃなくてC」の対句を持ってきておいて、第2パラグラフに「AじゃなくてB」の論証、第3パラグラフに「BじゃなくてC」の論証を持ってくるというシンプルな構造になっています。
ですので、精密な訳出はさておき、文意を掴むのはそう難しくないと思います。
ちなみにこの「AじゃなくてB、BじゃなくてC」というロジックは、以前解説したnot but構文の2連結です。

英語の文法知識として学んだはずのnot but構文が現代文でも重要な強調表現となり、更には古代中国の漢文においても使われているということです。しかも対句も併用した2連結の形です。
こうして普遍的なロジックは国も時代も超えるのです。

この本文の最終的な結論は「C」、つまり『優秀な人材が登用できるかは君主様次第ですよ』という進言です。君主を組織のリーダーと広く捉えると、次期リーダー候補(=受験生)への訓示としても通じます。
記述式の場合はそれらに加えて、元の文の構造をなるべく忠実に反映しつつも自然な現代語になるように説明する必要があります。
前回記事で古文について述べたように、漢文でも「一つ一つの品詞レベルを意識して訳文に落とし込む」ような意識が基本で、その上で設問の要求を満たしつつ解答欄に収まるように簡潔にまとめることが求められます。特に東大国語のように解答欄が狭い試験ではなおさらです。
その点で、やはり現代文の論理力・語彙力・記述力も基礎能力として求められます。
まとめ
以上より、漢文に必要な能力は、「最低限の暗記知識+漢字力(&イメージ記憶)+論理的読解力」であると言えます。
漢字力は、漢文の学習のために漢字を勉強すると言うより、いかに日頃から知らない漢字を自分で調べているかが大切です。まずは現代日本語の漢字知識を高め、それを土台として漢文特有の漢字の使い方を学ぶことです。
そこで過去記事で解説したように、「ググる習慣」=分からないことをその都度自分で調べる習慣を付けているか否かで知識の蓄積量が変わります。
この習慣は、国語や英語といった分野に限らず自分自身の知識力全般に波及するからこそ重要なのです。
そして論理的思考力は、大学進学を目指す受験生であればそもそも学科を問わず必須の能力です。
だからこそ当シリーズ「論理的思考のコツ・本質講義」ではこれまでロジックについて基本から徹底的に解説してきました。

こうした基礎力を磨いている人にとっては、「漢文は最低限の暗記勉強で済むからコストパフォーマンスが高い科目だ」となるのです。
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※記事後半部の解説を通して、論理的読解力の大切さを感じて頂ければ幸いです。
……とは言え、漢文は一定以上の暗記知識を習得しないとロジック以前に読めません。
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